KYOTO FIVE ROASTERS REPORT
#03
クアドリフォリオ
下京区
Dongree's select bean
グァテマラ
ウエウエテナンゴ
設計技師から焙煎職人へ
元設計技師でもある代表ロースターの山口義夫さんは、独学で焙煎を始め、その焙煎理論をより堅実なものにすべく、東京の老舗自家焙煎店「カフェ・バッハ」の田口護さんに師事されました。
その後、自分が納得できるまで、5年間の修行を経て、満を持してお店をオープンされた、まさに「職人肌」の焙煎屋さん。
山口さんに、理想のコーヒーの話、日々のお仕事、お店を始めるまでのエピソードをお聞きしてきました。
コーヒー豆の自家焙煎を始めたきっかけを教えてください。
元々していた設計技師の仕事を辞めた後、知り合いに焙煎をしてみないかと言われたのがきっかけです。それで焙煎機を借りて練習をしていたのですが、借りたのがフジローヤルの古い直火式ですごく気難しかったんですね。どうしたらうまく焙煎できるんだろうと試行錯誤しながらもやり続けていくと、だんだん理屈が分かってきました。そのうち誰かに師事したいという思いが強くなり、東京にある自家焙煎の名店「カフェ・バッハ」の田口護さん(※日本スペシャルティ協会の元会長)のところへ講習を受けに行ったんです。国内では田口さんが一番自分には合っているんじゃないかと思って。これがきっかけとなってバッハさんとのお付き合いが始まり、いざ自分で店を始めることになった際、バッハさんに生豆を卸してもらえることになったんですよ。
Dongree店主
「山口さんは最初、ご自宅のリビングに焙煎機を置いて研究されていたんですよね。マンションのリビングに焙煎機が設置されていると当時話題になって、雑誌にも載っていましたよね。 」
ええ(笑)今、お店に置いている焙煎機は2006年に手に入れたマイスター(※カフェバッハのオリジナルの焙煎機)です。お店のオープンが2013年で、その1年くらい前にようやく「これならいけるかな」という焙煎ができるようになったので、トータル6~7年は修行してたということになりますね。
焙煎とは熱化学反応
熱効率を考えつくして焼き上げる
バッハの田口さんのところへ講習を受けに行ったとき、練習用に置いてあったのがこれよりも大きいマイスターとフジローヤルの半熱風型の焙煎機でした。その2台を使って焙煎させてもらったんですが、フジローヤルの半熱風型が、当時借りていた直火型よりも若干扱いやすかったんです。それで直火式より半熱風式だなという意識になりました。マイスターというのは、田口さんがメーカーに依頼して完成させたもので、熱効率が理論的に組み込まれた非常によく考えられた焙煎機だったので、扱いやすくもあってこれに決めました。これは半熱風式で2.5㎏の豆を焼くことができます。値段的には他のメーカーと比べるとはるかに高いのですが(笑)、持っている能力と小回りが利くという部分が非常によかった。
この焙煎機を選んだ理由を教えてください。
カフェ・バッハオリジナル 半熱風式焙煎機「マイスター」(2.5kg)
当時10㎏や5㎏の焙煎機はあったものの、2.5㎏はまだ新型として試作の段階でした。その試作段階から買おうと決めて話を進めたので、うちのマイスターは市販の1号機なんです。この焙煎機だったら、おそらく何百gからでも焙煎ができる。基本的に、2/3以上豆を入れるのが理想と言われ、10㎏の釜なら7〜8㎏、5㎏だったら3㎏程度が非常にいい状態で焼けるのですが、この焙煎機なら1㎏でも非常にいい状態で焼けるんですよ。焼こうと思えば200~300gでも焼ける要素を持っていると思いますね。
この焙煎機で、山口さんなりに調整している部分はありますか? 」
基本的に焙煎機自身はオリジナルのままにしています。焙煎とは、生豆に熱を加えてさまざまな熱化学反応を起こさせるもの。だから熱効率を考えて作られた焙煎機でないと、いいものは作れないと私は思っています。安定した状況を作らないと安定したものはできない。いろいろなやり方があって、良いか悪いかは単純に論じられませんが、僕の場合は、できるだけ発生した熱源を中で利用できるような形をとりたかった。それには外からの影響が少ない半熱風式がベストだったんです。
Dongree店主
「オープン当初から使わせてもらっている、クアドリフォリオさんの『グァテマラ ウエウエテナンゴ』は、とにかく老若男女飲みやすいコーヒー。それが1年近く淹れさせていただいての印象です。山口さんが焙煎を学ばれたバッハの哲学にあるという、『コーヒーを美味しい飲み物とするための適切な中深煎り』が、まさにこのグァテマラの豆に現れていて、素晴らしいバランスのコーヒーになっているのだと思います。実際に山口さんが焙煎する際はどんな思いで取り組まれているのでしょう? 」
講習に行って最初に言われたのが、どうやったら焙煎を安定できるか、出来る限り記録を取りなさいということでした。実践の積み重ねで見えてくることがあって、こういう現象が起きたとき豆はこうなるんだというのがだんだん見えてくる。焙煎の位置は記録しているので、今はもうほとんど焙煎機の側で操作することはありません。焙煎はある種、勘の世界とも言われていますが、決してそうではなく、理論づめでモノを追っていけるものだと思っています。
また、焙煎をすると釜の中に煙が発生しますが、それをどれだけ残しておくかも重要です。煙が抜け過ぎると香りが変わり、味が抜けたような印象となり、逆に抜けが悪いと重たい味わいになってしまう。僕は重たい味わいは好きじゃないので、煙の抜けすぎをコントロールするため、あとからアロマメーターという装置をつけています。加えて、熱風を釜のまわりに送るファンの回転数や、それら熱風を外に出す排気量などもトータルで調整しながら焙煎しています。
精度の高いハンドピックで
キレのあるコーヒーを目指す
以前、田口さんに「あなたはどういうコーヒーを作りたいんだ?」と言われたとき、僕は「キレのあるコーヒーが作りたいんだ」と答えました。そのとき、田口さんには「そう思ってるんだったら、あなたは大丈夫だよ」と言ってもらったんですね。僕が目指しているのは、あとに嫌な味が残らない、キリッとした印象のコーヒー。そのために心がけていることといえば、たぶん人よりたくさんハンドピックしているということかもしれません。
うちのホームページでは「善いコーヒー」と、あえて善という字を使っているのですが、善いコーヒーとは、きちんと手をかけ、きちんと焼いてあげたものだと思うんです。きちんとした処理をしてどうぞと出せるところまでをやるのが僕らの役目。最後、それがおいしいかまずいかは、嗜好性の高いものだから飲む人の主観にゆだねられますが、作る側のできることは、できる限りちゃんとしたものを作る。ハンドピックでは生豆の段階で2割ぐらいの量を抜いて、ものによっては3割近くはじきます。焙煎後にもハンドピックをするので合計2回。ものによっては仕入れた豆の半分以下の量になるものもあるんですよ。なので、豆販売としてはもっと高い値段をつけたいという気持ちもありますが(笑)味を曇らせる可能性のある豆は抜くべきだろうという信念のもとにやっています。
焙煎の仕事について、どこに面白さを見出したのでしょう?
記録好きだったのと、焙煎は熱科学反応であり、それをコントロールできる面白さがあると思いますね。先ほどは理詰めで追えると言いましたが、ある程度追えるけれど、実は追えきれないところもあって(笑)
例えば、焙煎を始めたばかりの頃、エルサルバトルを釜から出すのが10秒遅れ、「失敗した!」と慌てて出したのですが、飲んでみると、「こっちの方がいいじゃん」ということがあって(笑)
また商品として並べることはないですが、たまに余った豆でいつもとは違う焙煎をしてみて、面白い味が出たりすると面白いですね。思わぬ発見があったりして。
今後チャレンジしてみたいことはありますか?
生豆の状態でお客さんに「この豆を炒ってほしい」と依頼を受けて、その場で焙煎するというオーダー焙煎はいつかやってみたいと思っています。何店舗か京都でもあるみたいですね。少量すぎるのは難しいので400gくらいからだったら実現可能かと(笑)コロンビアだったらシティロースト(中深煎り)で売っているけれど、一つ深いフルシティ(中深煎り)にしてほしい、軽めのハイロースト(中煎り)にしてほしいというのにも対応するなどして。やったらおいしくないっていうレンジ(焙煎の幅)のはあるので、フルカスタムにはしませんが。本来は同じ豆でも、焙煎度合いを変えて全く違うものとして存在できるという、一種の遊びのようなものですね。
Dongree店主
「クアドリフォリオさんのバランスの良いコーヒーは、山口さんの元設計者としての論理的な焙煎システムと、丁寧な手仕事があってこそ。実際お話を聞いて、焙煎中にマシンをほとんどいじらないという徹底した焙煎設計と、なによりハンドピックの量と精度に驚かされました。焼きムラも割れもなく、ちょっとしたシワや豆の大きさの違い程度の、欠点豆ともいえないようなレベルのものまで、彼の厳しい目でみるとピック対象になる。とにかく豆の均一性を大事にされていて、余計な味がまったく混ざらない、まさに『キレのあるコーヒー』。
焙煎機に対してもコーヒー豆に対しても、絶対に不協和音を起こさせない、『調律師』のようなお仕事ぶりでした。 」
クアドリフォリオ
営業時間
11:00〜19:00(水曜日のみ18:00閉店)
定休日
月・火曜
TEL
075-311-6781