KYOTO FIVE ROASTERS REPORT
#01
WEEKENDERS COFFEE
左京区元田中
Dongree's select bean
コロンビア ビクトール・バレッラ
グローバルな視線の先にある、フレッシュでクリーンな味わい
WEEKENDERS COFFEE 代表ロースター、金子将浩さんが使っている焙煎機は、世界中のロースターも数多く使っているPROBAT社製。「美味しいと思えるコーヒーは、この焙煎機で焼かれていることが多かった」という金子さんの果実感溢れるフレッシュな味わいのコーヒーは、まさにグローバルスタンダードに近い印象があります。
今回、金子さんには、『フレッシュ』で『クリーン』なコーヒーへの想い、そして世界のコーヒーシーンについて色々とお話を伺ってみました。
元々はエスプレッソのおいしさを伝えたいとカフェを経営されていた金子さんですが、そこから、コーヒー豆の自家焙煎を始めるに至った経緯から教えていただけますか。
カフェを始めた頃は島根の名店「カフェロッソ」のような味が出したいという思いが明確にあり、エスプレッソを提供していました。カフェとしてランチやフードも提供していたのですが、するとなかなかコーヒーが評価されないという状況が増えてきたんです。フードだけを楽しんで帰るお客様もいて、それが悲しくて(笑)。僕自身、料理を作るのも食べるのも好きですが、自分たちのやりたいことを伝えるには、その部分はなくした方がいいと思ったんですよね。カフェを始めた当初、焙煎はしていなかったのですが、2012年くらいから始め、その後、焙煎に集中したいと思ってカフェはやめました。
Dongree店主
「WEEKENDERSCOFFEEさんは日本、とくに京都では中々飲めなかったフルーティで華やかな味わいのある浅煎りコーヒーが飲める貴重なお店だと思っていて、以前から一人のコーヒー好きとして愛飲していました。この浅煎りの独特の味わい、世界観はすごいと常々思っているのですが、あの味わいを出したいと思った理由はあるのでしょうか。」
僕自身、お店を始めた当初から今現在も、目指す味は少しずつ変わってきているんです。ずっと自分の豆だけを突き詰めていくのではなく、月に1度は海外のロースターの豆を買うようにしていて、参考にさせてもらってます。そうやって国内外問わず他のロースターのコーヒーを一緒のテーブルにならべることで、自分の目指す味わいが作れたらと思っています。
Dongree店主
「海外のロースターの豆を購入されるなど、世界を視野に入れてらっしゃるんですね。
私は数年前、京都で開催されたイベントで、ポートランド(アメリカオレゴン州)のコーヒーロースター4店舗の焙煎豆を飲み比べるというものに参加したことがあります。そこで初めて浅煎りのエチオピアに出会い、その華やかでフルーティな味に衝撃を受けたんです。その衝撃的な味は、WEEKENDERSCOFFEEさんの味にとても似ている気がしました。
そんな風に、自分が感じた衝撃の味を伝えたくて、DongreeではWEEKENDERSCOFFEEのエチオピア、しかも、豆の独特の風味が色濃く感じられるナチュラル精製のものを仕入れさせてもらってます。」(※時期によりウォッシュドに変わる)
僕は浅煎りのコーヒーに出会った当初はロンドンのスクエア・マイルやオスロのティム・ウェンデルボーのコーヒーが特に好きでした。飲んだときに今までのコーヒーとは違うと感じたんです。
僕は何よりクリーンなコーヒーが好きで、クリーンには「きれい」という意味もありますが、豆の特徴がはっきりと分かるとうことをクリーンとも言い、クリーンな味わいを作り出そうと思ったら今の焼き方になりました。ギリギリで果実感が出せるのが浅煎りなんです。
Dongree店主
「深煎りが多いコーヒー文化の中で、深く豆を焼かなくても飲めるコーヒーがあるんだ、同じコーヒーなのにこんなに味が違うんだと感じたことで、私自身、浅煎りの世界が広がりました。おいしいコーヒーってこういうことをいうのかと初めて分かったような気がしたんです。その後また深煎りのおいしいコーヒー探しにも戻ったりするのですが、私にとって、おいしいコーヒー探しのスタート地点はフレッシュな浅煎りの世界でしたね。」
僕の考えでは、深煎りになるとスモーキーな味になって、曇るという印象があります。それに深煎りのお店はすでにたくさんありますよね。そこをあえて僕がやる必要はないと感じています。浅煎りが苦手という人は多いですが、ひとくくりに浅煎りといっても、豆によって全然違うんですよ。「酸っぱい」とか「飲みやすい」という言葉に逃げるのではなく、その次のステップを引き出してあげたいと思っています。
浅煎り=酸っぱいだけではない、そこの選択肢を増やしあげるのが僕たちの役割だとも。エチオピアの豆はインパクトがあるし、とらえやすい味なので、比較的分かりやすいですよね。
クリーンなコーヒーの味を追求すると、
浅煎りになるということでしょうか?
すべてはクリーンな味を作り出すため、
徹底した独自の焙煎プロファイル
焙煎機について教えてください。
ドイツのPROBAT社の焙煎機を使っています。海外でおいしいと思った豆は、みんなPROBATだったんです。5㎏入る釜ですが、3.6㎏で焼いたときにいい結果が出たので3.6㎏で焼いています。一粒一粒、火の当たりが違うので、豆の種類によっては3.8㎏入れるものもあったりと、1回に入れる量は味で決めています。焼き方にもよりますが、PROBATは浅く焼くと割と味に厚みが出るんです。海外の豆が浅くても甘さがあるのはなぜだろう、どうやったらこういう香りが出るのだろうと研究していく中で、それは豆が均等に焼けているからだと分かってからは、外側だけじゃなくちゃんと内側まで火が入るように焙煎しています。内側まで火が通っているかは表面を見ても分からないので、そのため豆を何回も同じキロ数で焼いて、豆ごとにどう焼くのかを決めています。豆の個性(=プロフィール)に合わせて、どこで温度をあげて、どういう経過を経て焼き上げていくかという「プロファイル」を設定しているので、プロファイルさえ決まれば、それに沿って焙煎していくだけです。
プロファイル以外に、気を配っていることはありますか。
焼く環境を同じにすることですね。例えば1日に10回焼くことを10バッチというのですが、バッチの間隔をどれくらいあけるのかで焼き加減は変わってきます。最初から熱い釜で焼くのと、冷たい釜で焼き始めるのとでは、火の入り方が違う。そこが毎回毎回違ったら困りますよね。あとは、排気は結構強めにしています。釜を締め切った状態で焼くと味がこもりやすいし、煙を被りやすいんです。クリーンな空気の中で焙煎をするからクリーンな味になるんだと思っています。
焙煎をしていて『面白い』と感じる時はいつですか?
プロファイルは、ある程度仮説を立ててやることが多いので、それがピタリと合ったときが楽しいですね。豆の硬さで火の入り方が全然違うので、1回で完璧に焼けるということはなく、同じ豆を3パターン4パターン焼いて、その中でも自分がいいなと思うものをまた修正して焼いていく。同じ生産者の豆でもロット(豆の数量)や収穫時期によっても微妙に違ってくるので、自分の中でどれが正解か分からないまま終わることもあります。ニュークロップ(※その年に収穫された鮮度の高い豆)の中でも違ったりする。収穫してから間もない若い状態でカッピング(味や香りを鑑定する、ワインのテイスティングのような作業)した味わいと、ちょっと日が経ったときの味わいはまた違うんですよね。なのでカッピングはほぼ毎日全種類しています。でも正直言って、焙煎の腕どうのこうのというより、原材料次第という部分が大きいです。
日本のコーヒー屋さんに行くと、ある程度コーヒーの種類があるのが当たり前になっていますが、海外のロースターではこの時期はこの豆しかないからと、フレッシュな豆を提供するところが多いんですね。その方が同じエチオピアでも、この豆はこういう味ですよと明確に伝えられる。ワインは寝かした方がいいですけど、豆は水分が抜けて劣化していくだけなので、フレッシュな豆を定期的に回して行けたらいいですよね。うちにも常に同じ豆というのは置いていません。
日本は常にいい豆を探し求めているところがありますが、将来的には同じ農園の豆を使い続けてあげるというのが理想です。いい豆を買うのは大前提で、同じ生産者を使い続けると、豆のクオリティが年々上がっていくのを理解できると思うんです。惚れる豆に出会えるってすごいことだと思いませんか。惚れる豆に出会えたら、そこに投資する。次のステップとしてはそこを目指したいですね。
Dongree店主
「焙煎機を選んだ経緯や、世界のコーヒーシーンを語られる金子さんのお話を聞いて、彼は京都の町に世界最先端のコーヒーを伝えようとしてくれている ”コーヒー伝道師” に思えました。なるほど、コーヒーの品質、そして原産地の創意工夫や努力の結晶たるスペシャルティの魅力を伝えるには、鮮度を保った浅煎りになるのは確かに理にかなっているし、ロースターの心情としてもごく自然なことかもしれない、と改めて気づかされました。」
WEEKENDERS 富小路
営業時間
07:30〜18:00
定休日
水曜日(祝日の場合は営業。翌、木曜日が代休)
TEL
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